小説:真宮寺教授の秘密講義《デブ猫競馬》


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第6章:裏切りのシナリオ――予防線という名の知略

「佐倉くん。完璧な作戦を立てた軍師が、最後に必ず用意しておくものは何だと思う?」

神宮寺教授は、ホワイトボードの隅に「Plan B」と大きく書き込み、不敵な笑みを浮かべた。

「ええと……負けた時の言い訳、とか?」

「惜しいわね。正解は『退却路』よ。データが示した本命・エリキング。彼がもし、他馬の徹底マークという名の『渋滞』に巻き込まれて沈んだ場合……世界はどう動くか。それを予測するのが真のプロよ」

競馬には魔物が棲んでいる。1番人気が包囲網に沈み、先行馬が互いの意地で共倒れする。そんなカオスが起きた時、データはどう書き換えられる? 私はすでに、バビットの逃げが作る『幻影』の先を見ている。プランBこそ、投資家としての私の矜持よ

「教授、もしエリキングが飛んだら、一体誰が来るんですか?」

「その時のための番外編ランキング、予防線の5頭よ。まず第5位は、変わらずヨーホーレイク。若手が自滅し合う荒れた展開なら、最後に笑うのは経験豊富なこのベテランよ。漁夫の利で3着に滑り込む姿が容易に想像できるわ」

「第4位は、ここで復活のジューンテイク。三次選考で消したけれど、ハイペースで前が総崩れになれば、彼の『無欲の追い込み』が突如として輝き出すわ。大波乱の使者はいつだってこういうタイプよ」

「第3位はエコロディノス。エリキングがマークされるなら、同じ4歳世代のこの馬がノーマークでスルスルと抜け出す。56kgの身軽さは、混沌とした展開で最大の武器になるわ」

「第2位は、やはり王者の底力、ヘデントールよ。エリキングが包囲網に苦しむ中、彼は59kgの重圧を力技でねじ伏せて、外から強引に捲ってくる。格の違いだけで2着を確保するシナリオね」

「そして……」神宮寺はリビアングラスの名前を指した。

「第1位はリビアングラス。これが『予防線の核』よ。もしエリキングが後方でもたついたなら、バビットを風除けにして悠々と番手を走るこの馬が、そのまま独走する。バビットが作るペースは、リビアングラスにとっての『特等席』。これこそが、本命が沈んだ時の最もロジカルな結末よ」

【番外編:波乱対応型予防線TOP5】

1. リビアングラス(単騎逃げ・番手押し切り)
2. ヘデントール(59kgをねじ伏せる地力)
3. エコロディノス(漁夫の利を狙う新星)
4. ジューンテイク(無欲の激走)
5. ヨーホーレイク(着拾いの老練)

「バビットがリビアングラスを助ける形になるんですね。消した馬がレースを作るなんて、皮肉なもんだなあ」

「それが競馬よ、佐倉くん。誰かの失敗が誰かの幸運に変わる。データはその連鎖を読み解く鍵なの」

神宮寺教授は満足げに伸びをすると、タブレットを閉じた。

「……教授、そういえば『魔法少女税理士』の最終回、見ました? 主人公が世界中の『不幸の連鎖』を『損益通算』して、ラスボスの呪いを非課税にして無力化してましたよ」

「……不幸を損益通算。その発想、私のポートフォリオ管理にも応用できそうね。佐倉くん、今夜はピザでも取って、その最終回を徹底分析しましょうか」

「はい、教授! データ分析、奥が深すぎます!」

二人の笑い声が、冷たい空気の残る研究室に響いた。京都記念のファンファーレが鳴るまで、あと少し。


― 完 ―